ゼラチンのBSE安全性について
( 2002/06/24 ゼラチンのBSE安全性に関する研究報告会 要旨 )日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合
2002年7月22日A.出発原料
牛の骨、皮にはBSE感染性は検出されません。ゼラチンのBSEリスクとして問題になるのは、脳などの高感染性組織が原料としての骨に汚染を起こす可能性です。皮ではこのような交差汚染は考えられません。そこで、交差汚染の状況を作り出すために、TSE感染物質としてハムスター継代の263K株(スクレイピー)もしくはマウス継代の301V株(BSE)を牛骨に添加(スパイク)し、現実に起こり得るよりも1000倍高いレベルに汚染させたものを出発原料としました。これらの株は、インバレスク研究で用いられた株よりも、感染性、耐熱性ともに高いものです。B.ゼラチン製造
この骨原料を、ベンチスケールのゼラチン製造モデルを用い、脱脂、脱灰処理(pH1.5以下、2日間)ののち、伝統的な酸(pH3、一晩)またはアルカリ(過飽和石灰、20日)による原料処理を行ない、ゼラチンを製造しました。抽出ゼラチンは、さらにろ過、イオン交換、殺菌工程(138℃、4秒)を経て、 最終製品まで仕上げました(英国エジンバラの家畜衛生研究所担当)。これら一連のゼラチン製造実験とは別に、ゼラチン溶液に301V、263Kをスパイクしたサンプル を、ろ過、イオン交換、殺菌し、液処理工程のみの不活化効果を評価する研究も実施されました(米国ボルチモア研究・教育財団担当)。 これらの条件は、伝統的なゼラチン製造条件で、かつGME各社に共通な最低限のものが採用されています。すなわち、日本ゼラチン工業組合各社においても、同条件以上のレベルで製造が行なわれています(7)。また、感染物質による汚染原料の調製、スケールダウン製造モデルが、実際のゼラチン製造条件と等価であるかなど、一連の実験の正当性については、別の独立機関により評価、検討がなされています。C.感染性評価
バイオアッセイによって評価されました。TSE株の由来と同じ動物、即ち263K株のスパイクサンプルはハムスター、301V株はマウスへの脳内接種が行なわれました。これにより種のバリアおよび経口によるバリアのいずれも無い系であり、高感度の感染性の測定ができることになります。被験動物は、最長の潜伏期間以上飼育され、TSEの臨床的、組織生理学的観察が行なわれました。D.結果
酸処理、アルカリ処理ゼラチンのいずれも、最終製品に感染性は検出されませんでした。すなわち、ゼラチンの製造工程は、現実には起こり得ない高レベルの汚染により持ち込まれたTSE感染物質をも完全に除去/不活化しました。【用語の解説】
TSE感染物質 | 一般的に、スクレイピーやBSEなどTSE(伝達性海綿状脳症)に罹患した動物の脳をすりつぶした乳剤様物質。これが不活化研究などに用いられる |
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スパイク | 感染原因物質を大量に加えて実験を行なう際の添加のことをスパイクと呼ぶ |
バイオアッセイ | 生物検定法、生物学的(毒性)試験などと呼ばれ、生物材料を用いて、生物学的応答から、生物作用量を評価する方法 |
ID50 | 感染単位。統計的に求められた発症に必要な最少の接種材料の量を感染単位が1であるとし、対象物の感染価の大小を評価する尺度として用いる |
【参考文献】
(1) | World Health Organization : Report of a WHO Consultation on Medicinal and other Products in Relation to Human and Animal Transmissible Spongiform Encephalopathies, Annex 1 (1997) |
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(2) | Gelatin Manufacturers of Europe : The BSE Safety of Pharmaceutical Gelatin from Bovine Raw Material, Status 28(1994) |
(3) | Health & Consumer Protection Directorate - General, European Commission : The Safety of Gelatine (Updated by the Scientific Steering Committee, 20-21 Jan. 2000) |
(4) | Health & Consumer Protection Directorate - General, European Commission : The Safety with Regard to TSE Risks of Gelatine Derived from Ruminant Bones or Hide from Cattle, Sheep or Goats (Adopted by the Scientific Steering Committee, 28-29 Jun. 2001) |
(5) | GME : Summary report of the Gelatin Process Study Workshop, held in Brussels on December 5th, 2001 (A. H. Grobben) |
(6) | 連続講座人獣共通感染症(第133回), 山内一也, http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/5_byouki/prion.html |
(7) | 日本にかわゼラチン工業組合:ゼラチン製造工程 (1996.5.27) |
(8) | World Health Organization : Report of a WHO Consultation on Public Health Issues related to Human and Animal Transmissible Spongiform Encephalopathies - WHO/EMC/DIS/97.147 (1996) |