日本ゼラチン・コラーゲン工業組合
2000年4月23日
ゼラチンは人に対してアレルゲン性を示さない物質と考えられ、食品、医薬品の原料として長く安全に用いられてきました。しかし、日本では、過去、ワクチン接種に関わる特殊な事情から、特定の年齢層でゼラチンアレルギーの発症例が相次ぎました。その後の調査によって、原因が判明し、ゼラチンアレルギーを引き起こす特殊な事情は解消されましたが、アレルギー体質となった方に対しては継続して考慮する必要があり、また、長く安全とされてきたゼラチンであっても特殊な要因が複合する場合にはアレルゲンとなる可能性があるので継続調査を必要として、ゼラチンはアレルギー表示が奨励される食品となりました。
ゼラチンは一般の方にとって、通常の利用をされる限りは、過去もこれからも安全な食品です。
しかし、日本におけるゼラチンアレルギーの特殊な事情についてよく知られていないことから、ゼラチンの安全性について懸念される方もいらっしゃいます。そこで、公表されている論文、資料をもとに、ゼラチンアレルギーについて解説いたしました。皆様のご理解の参考になれば幸甚と存じます。
人には、細菌やウイルスなどの外敵の侵入に対して体を防御する免疫という仕組みがあります。「疫」(病気)を免れるという語義の通り、人にとって無くてはならないものですが、その免疫系が、逆に体に不利益な状態をもたらすことがあります。それがアレルギーです。
食べることも、体にとってみれば、自分以外の異物を体内に取り込むことに他なりません。消化吸収された食品中のタンパク質が、異物(抗原)として認識されると、それに対応する抗体というマーカーが作られ、将来的な異物の侵入に備えます。(感作)抗原と抗体は、鍵と鍵穴のような関係があり、再び、同じ異物が体内に入ってくると、抗原抗体反応によって、アレルギーが引き起こされます。食品すべてにアレルギーを発症させていたのでは、体にとって非常に不都合なため、摂取された食品に対して、特異的に免疫応答を抑制する仕組み(免疫寛容)が働きます。何らかの要因で、免疫と免疫寛容のバランスがくずれ、過剰に防衛反応することが、食品アレルギーの理由とされています。
食物アレルギーは、その症状を持つ人には非常に深刻な問題です。しかし、食中毒菌や自然毒のような全ての人に共通するリスクではありませんので、アレルギー症状を持たない人は、卵や乳製品同様、ゼラチンについても特別に考える必要はありません。
かつて、ゼラチンは、人に対してアレルゲン性を示さない物質であると考えられてきました。しかし、1990年半ば、ワクチンに添加されたゼラチンに起因するアレルギー症例報告が、日本国内で相次ぎました。これは、ある特定期間の乳児への3種混合ワクチンの接種スケジュールに起因する日本特有の事情によることが調査でわかっています。
1994年ゼラチンを含有するワクチン接種(おたふく風邪、麻疹)にともない、アナフィラキシー症状を示す患者が見つかり、ゼラチンに対するIgE抗体が見いだされたことから原因物質がゼラチンであることが判明しました。
1993年以前にはゼラチン含有ワクチン接種によるショックはほとんど報告されておらず、さらにワクチン接種によるゼラチンアレルギーの発症が多く見られたのは日本に限られています。日本では1988年以前には3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)を2歳児に接種していました。しかし、国内でこのワクチンの弱毒化に成功したため、1989年より接種を3ヶ月~24ヶ月齢に前倒ししてきました。すなわち、非常に若い乳児期に、ワクチン中のゼラチンによって感作された一部の幼児が、その後に受けた、麻疹、おたふく風邪のワクチン中のゼラチンによってアレルギー反応が引き起こされたと考えられています。阪口らの調査によると、1994~1996年にかけてゼラチンを含むワクチンの接種によりアレルギー反応を示した患者数は、接種者 百万人あたり麻疹ワクチンでは6.84例、風疹ワクチン7.31例、おたふく風邪ワクチン4.36例、水痘ワクチン10.3例という非常に少ない確率です。
厚生省(当時)は、ゼラチンアレルギー対策として、1996年までに、3種混合ワクチンからゼラチンを除く措置を行なったため、その後、ゼラチン含有ワクチン接種による新たなアナフィラキシー症例は報告されていません(2003年4月時点)従来、ゼラチンアレルギー症例は、日本を含め、海外でも非常に稀でしたが、上記の特殊な事情からゼラチンアレルギー体質を持つ方が、日本国内ではある年齢層で存在するようになりました。そのような方々は、該当する年齢層で百万人当たり4~10名程度の比率で存在し、詳しい調査データは公表されていませんが、一説では患者数は約二百余名とも言われ、2009年現在では12~21歳になっておられることになります。
もちろん、ゼラチンアレルギーの要因が、ゼラチン含有ワクチン接種に限定されるものではありませんが、ワクチンのゼラチンフリー対策後、ワクチン接種でゼラチンアレルギーが惹起された報告がないことから、それ以外の事情でゼラチンに感作されるケースは非常に少なく、今後も恐らく非常に少ないものと考えてよいと思います。
ゼラチンの食物アレルギーとしての症例は数少ないという報告があります。
平成17年の「即時型食物アレルギー全国モニタリング調査」(国立病院機構相模原病院臨床研究センター 海老澤元宏・今井孝成)によると、ゼラチンで即時型食物アレルギー(食後1時間以内にアレルギー症状が出て、医療機関を受診した)の症例を示した件数は、平成13, 14年度は、全3882度数中18度数(0.5%)、平成17年度は、全2295度数中 7度数(0.3%)と報告されています。また、アナフィラキシーショックを起こした重篤例は、平成13,14年で1件のみ、平成17年度では報告がありませんでした。
これらの食物アレルギー症状とワクチン接種の関連は明らかではありませんが、いずれにしても、ゼラチンを含む食品の摂取によるアレルギー症例は、他の食物アレルギー症例と比較して、非常に数少なく、また重篤な症例は極めて稀であることが公的機関の調査で示されています。
ゼラチンによる食物アレルギーの症例報告が少ない要因の一つとして、ゼラチンが消化によって低アレルゲン化することが、会員会社の(株)ニッピのHPで概説されています。
食事として入ったゼラチンによって感作されることは非常にまれです。またゼラチン含有ワクチンの接種によりアレルギー反応を示すゼラチンアレルギー患者にしても、その多くの患者はゼラチン含有食品でアレルギーを起こしません。
一般に食品は咀嚼され、胃内で分解が起こりその後腸においてさらに分解を受け吸収されていきます。経口摂取によるアレルギー症状の一般的な症状は、口周囲のかゆみ、発赤、蕁麻疹、紅斑等であり、まれにアナフィラキシー反応の例が知られています。我々のゼラチンの酵素消化による低アレルゲン化の研究の結果は、ヒトの消化器系酵素であるペプシン、トリプシン、およびキモトリプシンなどが極めて効率よくゼラチンの抗原性を失わせていることを示しており、ゼラチンの経口摂取によるアレルギー反応が口腔内での反応を除けば非常に少ないのは、このような人体に於ける消化の巧みな仕組みによると考えられます。
食物アレルギーは、その症状をもつ方々には、非常に深刻な問題であるため、加工食品の使用原材料に関する情報開示は重大な意味をもちます。そのため、アレルギー食品の表示ルールが法整備され、適切に運用されています。
平成13年(2001年)3月21日に、食企発第2号、食監発第46号として、「アレルギー物質を含む食品に係る表示制度について」が通知されました。(平成21年1月最終改正)
アレルギー物質を含む食品のなかで、特に症例数が多いもの、また、症状が重篤であり生命に関わるため、特に留意が必要なものとして、次の7品目は加工食品への表示が義務づけられています。
卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生
症例数が少なく、省令で定めるには今後の調査を必要とするものとして、ゼラチンを含む次の18品目については、加工食品への表示が奨励されています。
あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
ゼラチンをアレルギー物質としている国は、知る限り日本だけですが、それは、国内のある年齢層に、諸外国に例を見ないほど、ゼラチンアレルギー体質の方がおられるという特殊な事情によるものと考えられます。その方々が知らずにゼラチンを摂食してしまうことで、万一にも重篤な事態を引き起こさないよう、日本ではゼラチンの含有表示による注意喚起を奨励しています。
ゼラチンアレルギー体質の方にとっては、動物種由来の差は多少あっても、牛、豚、魚等のいずれのゼラチンでも抗体反応する可能性があります。
一般の方が通常にゼラチンを摂食することで、ゼラチンアレルギー体質になることはまずありません。乳幼児の離乳食については牛、豚、魚由来の食品と同様に考えていただくことで良いと思います。2007年度に厚生労働省が策定した「授乳・離乳の支援ガイド」、離乳編に食物アレルギー対策が記載されております。
ゼラチンアレルギーの検査は、病院で受診可能です。病院に行って採血してもらい、血清中のゼラチンに特異的な抗体の量を測定します。この結果にもとづき、お医者さんがゼラチンアレルギーかどうかを判断します。この方法は、アレルギー検査として一般的で、たとえば、スギ花粉症であれば、同様に血液を採ってもらって、血清中のスギ花粉に特異的な抗体を測定します。
どのようなアレルギーの診断検査ができるのか、臨床検査会社の一つである三菱化学メディエンス(株)にHP情報で詳しく説明されており、以下に、食品の一例を示します。アレルギー食品の表示制度の対象25品目以外にも、色々あることがわかります。
牛乳、卵白、卵黄、米、ソバ、小麦、大麦、オート麦、アワ、ヒエ、キビ、トウモロコシ、大豆、インゲン、エンドウ、ピーナッツ、アーモンド、クルミ、ココナッツ、イチゴ、リンゴ、モモ、バナナ、メロン、オレンジ、グレープフルーツ、キウイ、マンゴ、アボガド、洋ナシ、トマト、セロリ、パセリ、タマネギ、スイカ、人参、ヤマイモ、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャ、ほうれん草、タケノコ、ニンニク、ゴマ、マスタード、麦芽、ビール酵母、カカオ、チーズ、グルテン、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、エビ、ロブスター、カニ、アサリ、牡蠣、ホタテ、イカ、タコ、サバ、アジ、イワシ、タラ、カレイ、サケ、マグロ、イクラ、タラコ、ゼラチン
わが国の食物アレルギーを持つ方の比率は、乳児が約10%、3歳児で約5%、学童以降が1.3~2.6%程度で、全年齢を通して、1~2%程度と考えられています。また、アレルギーの原因食品の内訳は、右図の通りで、卵と乳、小麦が全体の約6割を占めています。(即時型食物アレルギー;今井孝成、海老澤元宏:平成14年・17年度厚生労働科学研究報告書)
日本では、過去の特殊な状況下のワクチン接種によってゼラチンアレルギー症例が、一時期に相次いで起こるという不幸な事態が起こりましたが、ワクチンのゼラチンフリー化の対策がすすみ、現在では同要因による新たなゼラチンアレルギー体質の方の発生は見られません。ゼラチンの食品アレルギーは、非常に稀ですので、自覚症状などがなければ、その他の食品同様、食生活からゼラチンを特に避ける必要はありません。すべての食品に言えることですが、特定のものばかり食べるのではなく、バランスの良い食生活を心がけることが重要です。
普段の食生活で普通に暮らしておられる一般の方はご心配される事はありませんが、ゼラチンを含む食品を食べて気がかりな症状が出るようでしたら、医療機関にご相談下さることをお勧めいたします。